『健康』
8月の終わりに寄せて。
詞曲・歌・ハープ 市井ヒロノ
泣けなくて
かなしくて
わらったの、人混みのなかで、君は、
「たのしい?」って訊いた。
狂乱の渦にのまれ
思い切り叫んで笑う
それも健康の証
わたしはどんどんみがかれて
ゆたかにたおやかに
うつくしくなってゆく。
あなたよりずっとしずかに。
君は君を健やかに生きて
どうかわたしをわらわないでね。
血の匂い
気づかずに、
おしろいの匂いにだけ気づいて、
「かわいい」って言った。
幼稚な言葉しかもたず
思い切り泣いては笑う
それも健康の証
知らないことを知って
できないことも知って
わたしはうつくしくなってゆく。
それはかなしいことよ。
君は君を健やかに生きて
どうかわたしをわらわないでね。
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『あなたはだんだんきれいになる』
「智恵子抄」で、高村光太郎はうたいました。
『をんなが附属品をだんだん棄てると/どうしてこんなにきれいになるのか。』
(高村光太郎『智恵子抄』―「あなたはだんだんきれいになる」 より)
身の回りの女性と話す機会があると、楽しい時間を過ごしたあとにかならず、一抹のさびしさを覚えます。女の子はいつまでもつづかないのに、いまは女の子を精いっぱい生きなきゃいけないね、という、さびしさ。
”後輩ちゃん、若い。かわいい。わたしなんかもうばばあだし。あはは。みんなに人気あるのわかるなあ。わたしもだいすき。”
(しばしば耳にする単語のコラージュ)
この歌の主人公は女の子で、かわいくてやさしいひとです。
人混みの中で「君」―健やかな君―について歩き、いろいろな話をしながら、いろいろなことに気づいてしまって、泣きたい場面なのにそれでもじょうずに笑える、そんな女の子です。
彼女は心の中でうたいます。
だんだん「うつくしくなる」女性の、若さゆえの悲しさを。
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